○木蠟(もくろう)
日本の東海地方以西、台湾、中国、東南アジアなどに分布するウルシ科の落葉小高木ハゼノキ(Rhus succedanea)やヤマハゼ(R.silvestris)の果実から得られるロウ状の物質を用いる。中国ではハゼノキの根を林背子というが、あまの果実は薬用にしない。
かつては果実から木蠟をとるために広く栽培され、木蠟はロウソクやポマード、織物のつや出しなどに利用された。幹や枝にアレルギー性物質を含むため、汁液が肌につくとウルシかぶれに似た皮膚炎が生じる。
ロウを製する方法は室町時代にすでに中国から日本に伝わっていたが、それとは別に江戸中期に沖縄を経由して薩摩にも伝わり、九州各地でハゼノキが盛んに栽培されるようになった。
ロウの作り方は、まず採取した果実をせいろうで蒸して爛らかせ、臼でついて生蠟とする。さらに太陽光線でさらすと晒蠟(白蠟)になるが、これを木蠟という。
成分は主にパルミチン酸のグリセリドである。医療用には蜜蠟の代用として軟膏、坐薬の基剤として用いる。ハゼノキの根皮(林背子)を煎じたものは止血や腫れ物の解毒に用いる。
○木防已(もくぼうい)
中国、台湾、日本に分布し、日本の本州、四国、九州などに普通に見られるツヅラフジ科の落葉つる性植物アオツヅラフジ(Cocculus trilobus)の根茎および根を用いる。若いつるの部分が青いためにアオツヅラフジの名がある。
中国でもアオツヅラフジの植物名を木防已というが、今日、中国市場で木防已として流通しているのは主にウマノスズクサ科の広防已(Aristolochia fangchi)や漢中防已(A.hetrophylla)の根といわれている。現在、日本では木防已の市場性はなく、一般には利用されていない。たとえばエキス剤の木防已湯にも木防已ではなく、防已(漢防已)が配合されている。
アオツヅラフジにはトリロピンやトリロバミン、マグノフロリンなどのアルカロイドが含まれ、解熱、降圧などの作用が報告されている。一方、ウマノスズクサ科の広防已や漢中防已な含まれるアリストロキア酸は腎障害を起こすことが報告されている。
いずれも漢方では利水・止痛の効能があり、浮腫や脚気、関節の水腫や疼痛などに用いる。これらの効能は防已(漢防已)とほぼ同じであるが、止痛作用は木防已のほうが優れ、利水作用は漢防已のほうが優れている。