2014/10/20 9:46

○蕗(ふき)

 日本では本州、四国、九州、朝鮮半島、中国に分布するキク科の多年草フキ(Petasites japonicus)の花茎あるいは根茎を用いる。日本ではフキを「款冬」と書くこともあるが、中国語の款冬とはキク科のフキタンポポのことである。

 フキは日本特産の野草として栽培され、葉柄は「ふき」、花茎は「ふきのとう」と呼ばれて売られている。フキは「富貴」に通じ、縁起のいい植物として親しまれている。薬用としてはフキの根茎を中国では蜂斗菜、日本では款冬根といい、蕾のことの花茎を蕗の薹と称して利用する。

 フキの根にはペタシンが、フキノトウにはケルセチンやケンフェロールなどが含まれる。漢方薬としては用いないが、中国や日本では民間薬として煎じた液でうがいしたり、打撲傷や毒蛇咬傷に根を搗きつぶした汁を内服あるいは塗布する。

 日本では風邪や喘息などのときに解熱、鎮咳、去痰薬としてフキノトウを煎じたり、味噌和えにして食べたりして用いる。フキの地上部にはフキノン、フキノール酸、クロロゲン酸といったポリフェノールが含まれており、近年、フキの地上部から抽出したエキスに、ヒスタミンやロイコトリエンなどの脱顆粒抑制作用、TNF-α産生抑制作用が認められ、アレルギー性鼻炎に対する効果が注目されている。

 欧米ではセイヨウフキ(P.hybridus(バターバー))が花粉症や片頭痛などの治療に用いられている。

2014/10/17 9:58

○蕪荑(ぶい)

 中国東北部、朝鮮半島、シベリア半島に分布するニレ科の落葉小高木チョウセンニレ(Ulmus macrocarpa)の果実を加工したものを用いる。

 果実は偏平で種子の周囲に広い翼がある。これを採取して日干しにし、揉んで翼を除き、種子を取り出し、水に浸して発酵させる。これに楡白皮の粉末や紅土、菊花を加えて温湯に混合して糊状になったものを平板の上で伸展し、6cm四方に切って乾燥したものが蕪荑である。

 表面は黄褐色の軽くて脆いもので、特有の匂いと酸味がある。やもに山西・河北省で生産されている。成分は不詳であるが、駆虫作用や抗真菌作用がある。神農本草経の中品に収載され「三虫を去り、食を化す」とある。

 漢方では駆虫・消積の効能があり、とくに小児の疳積と回虫による腹痛に用いる。一般に搗いて粉末にしたものや、炒ったものを散薬として服用する。また回虫症に使君子・雷丸などと配合する(化虫丸)。

2014/10/15 9:30

○檳榔子(びんろうじ)

 マレー半島烏原産でインドネシア、フィリピン、中国南部などに植栽されるヤシ科の常緑高木ビンロウ(Areca catechu)の種類を檳榔子といい、その果皮を大腹皮という。

 種子は長さ3cmぐらいのおむすび型をしており、表面に網目の模様がある。東南アジアの諸国ではビンロウの未熟な果実の胚乳を縦に割り、石灰をまぶし、ときに阿仙薬や甘草などと混ぜてキンマの葉で包んだものをチューインガムのように噛む風習がある。これを噛むと口の中が真っ赤になるが、麻酔的な作用があり、爽快な気分になる。

 果実にはアレコリン、アレカイジン、クバコリン、クバシンなどのアルカロイド、ラウリン酸、ミリスチン酸などの脂肪酸、タンニンなどが含まる。アレコリンにはピロカルピンよりも強い副交感神経刺激作用、中枢抑制作用がある。このため唾液の分泌を促進し、瞳孔を縮小させ、腸蠕動を更新させる。多量に用いると流涎や嘔吐、多尿がみられ、ひどければ昏睡や痙攣が現れる。このときにはアトロピンの注射が有効である。

 また煎液にはミミズやヒルに対する殺虫効果が条虫に対する駆虫効果のあることが知られている。漢方では駆虫・消積・理気の効能があり、消化不良や腹痛、寄生虫症、便秘、脚気などに用いる。

2014/10/03 9:40

○枇杷葉(びわよう)

 中国の揚子江地方を原産とするバラ科の常緑高木ビワ(Eriobotrya japonica)の葉を用いる。葉の裏の絨毛はブラシなどで取り除いて用いる。またビワの葉から蒸留して得られた液を枇杷葉霜という。

 ビワの名は葉の形が楽器の琵琶に似ていることに由来するといわれ、日本にも9世紀前後に渡来したと推定されている。日本に自生していた品種もあったが、果実は小さく食用としての利用価値は低かったという説もある。江戸中期には農村でも果樹として栽培されるようになり、さらに幕末になった大果のビワが清国から長崎に伝えられた後、日本各地に普及した。

 葉には精油が含まれ、その主な成分はネロリドールとファルネソールである。またアミグダリン、ウルソール酸、オレアノール酸、クエン酸、ビタミンB・Cなども含まれる。薬理作用として抗炎症作用や抗菌作用が知られている。

 漢方では止咳・止嘔の効能があり、咳や痰、鼻血、嘔吐等に用いる。また日本漢方では食中毒や下痢にも用いる。気管支炎などで咳嗽や膿痰、咽頭乾燥のみられるときには沙参・桑白皮・山梔子などと配合する(琵琶清肺飲)。鼻炎や鼻茸などで鼻づまりのみられるときには辛夷・山梔子などと配合する(辛夷清肺湯)。

 口内炎や歯槽膿漏などには麦門冬・茵蔯蒿などと配合する(甘露飲)。食あたりや夏の下痢には藿香・縮砂などと配合する(和中飲)。この和中飲の加減方である枇杷葉湯は江戸時代から明治にかけて暑気払いの妙薬として有名であり、該当で売り歩く声は夏の風物詩のひとつとなっていた。

 また民間ではあせもや湿疹を治療する浴湯料としてもよく知られている。このほか大正時代には静岡県内の禅寺から始められた「枇杷の葉(温圧)療法」という民間療法がある。これはあぶったビワの葉の表面を患部や全身に圧し当てたり、ビワの葉を置いた上から加熱するという方法で、難病や癌にも効果があるといわれている。

2014/09/29 9:40

○白花蛇(びゃっかだ)

 中国南部、台湾に生息するクサリヘビ科のゴホダ(Agkistrodon acutus)、コブラ科のアマガサヘビ’Bungarus multicinctus(などの毒蛇の内臓を除去した全体を用いる。

 五歩蛇は別名を尖吻腹ともいい、体長約150cmで、全体が灰褐色で幾何学的な濃褐色の斑紋があり、頭は大きく三角形になっている。五歩蛇は中国南部に分布し、山地の森林の中に生息して鳥や小型の哺乳動物を捕食する。生薬名をとくに蘄蛇、あるいは大白花蛇ともいう。

 銀冠蛇は体長約1mで背中は白と黒の帯状の斑紋があり、頭は小さく、銀冠蛇は中国南部の平原や山地に生息し、夜行性でカエルやネズミ、魚などを捕食する。幼蛇を生薬として用い、小白花蛇ともいう。また広東や広西省では無毒なヘビ科の広花錦蛇(Elaphe moellemdorffi)を白花蛇として用いている。

 五歩蛇の唾液腺には強烈な出血性・溶血性の毒が含まれ、トロンビン様の物質、エステラーゼおよび数種の抗凝固物質が報告されている。銀冠蛇の唾液腺には強烈な神経毒が含まれ、αブンガロトキシンが知られている。

 漢方では虚風湿・定驚の効能があり、リウマチなどによる関節の疼痛や麻痺、しびれ、痙攣、皮膚疾患などに用いる。関節痛やしびれ、麻痺などに用いる活絡丸や舒筋活絡丸などに配合されている。

2014/09/24 10:11

○白僵蚕(びゃっきょうさん)

 カイコガ科のカイコの幼虫が白僵菌に感染し、白く硬直して死んだものを乾燥して用いる。養蚕は4000年以上前から中国で始められ、日本にも3世紀までには伝えられたとされている。繭を取り去った後のカイコの蛹は、古くから養蚕している地方で食用にもされ、現在でも長野県で蛹の佃煮の缶詰が作られている。

 カイコの病気に幼虫の体内にカビの一種である白僵菌が寄生する硬化病(オシャリ病)というのがある。湿度が高いときに発病するといわれ、これに冒されると幼虫は食欲が低下し不活発となり、体色が赤味をおびて死んでしまう。死んだカイコは硬くなり、翌日頃から表面に白い菌糸が現れ、やがて全体が白い糸で覆われてしまう。この幼虫の死体を白僵蚕という。

 養蚕家の最も恐れている病気であるが、中国では菌をカイコに接種して白僵蚕を作っている。また近年、サナギ(蚕蛹)に接種した白僵蛹を白僵蚕の代用品として用いることもある。

 体表の白い粉にはシュウ酸アンモニウムが含まれ、白僵蚕自体にはバッシアニンという黄色色素が含まれている。薬理学的には鎮痙・催眠作用が知られている。漢方では解表・止痙・化痰の効能があり、風熱による発熱や頭痛、咽痛、風痰による痙攣や卒中、風疹による搔痒感などに用いる。

 顔面の丹毒や扁桃炎、耳下腺炎などには薄荷・牛蒡子などと配合する(普済消毒飲)。癲癇などによる痙攣や意識障害、小児のひきつけには沈香・天麻などと配合する(沈香天麻湯)。中風による顔面神経麻痺や半身不随などには紅花・棕欄葉などと配合する(強神湯)。脳卒中の後遺症や手足のしびれ、関節の痛みなどに烏薬・麻黄などと配合する(烏薬順気散)。なお、カイコの糞は蚕沙、カイコの脱皮は馬明退と称して生薬に用いる。

2014/09/18 9:48

○白蘞(びゃくれん)

 中国原産のブドウ科のつる性落葉低木カガミグサ(Ampelopsis japonica)の根を用いる。日本には江戸時代に薬用として渡来したものだが、カガミグサの学名にはヤポニカとある。野ブドウの仲間で、秋になると白、紫、青など色とりどりの球形の液果がなり、美しいため観賞用にも栽培されている。

 根は紡錘形に肥厚し、中が白いことから白蘞の名がある。根の成分には粘質やデンプンが含まれるが、詳細は不明である。また水製エキスには抗真菌作用がある。

 漢方では清熱解毒の効能があり、皮膚化膿症や腫れ物、火傷、ただれに用いる。腫れ物や打撲傷、火傷の解毒や止痛には煎じて内服にしたり、患部に粉末にした外用する。金匱要略では虚労による諸症状や関節や腰の痛みに用いる薯預丸の中に配合されている。

2014/09/16 9:36

○白扁豆(びゃくへんず)

 熱帯原産とされるマメ科のつる性一年草フジマメ(Dolichos lablab)の白色種子を用いる。フジマメの花は扁豆花、守皮は扁豆衣といわれ、薬用にされる。

 花がフジの穂と似ているためにフジマメといわれ、たくさん採れることから千石豆とも呼ばれている。また関西では隠元禅師が日本に持ってきたとしてインゲンマメとも言われているが、本当のインゲンマメは別の植物である。独特の香りがあり、おもに若さやを食用とする。

 種子にはスチグマステロールやチロシナーゼが含まれている。また2種の赤血球凝血素が分離され、ラットに対する成長抑制や肝障害なども報告されている。漢方では解暑・健脾・止瀉の効能があり、夏の消化不良、嘔吐、下痢、食欲減退などに用いる。白扁豆は補脾であっても、化湿であっても燥でないので脾虚で湿のあるときに適する。

 慢性の胃腸虚弱による食欲不振、下痢、胃部不快感などに人参・白朮・茯苓などと配合する(参苓白朮散)。夏風邪などによる嘔吐や下痢などの胃腸症状には香薷・厚朴と配合する(香薷散)。大病の後で補剤をはじめるときにまず白扁豆を用いて胃腸を整えるとよい。また酒毒や薬物の毒に対する解毒作用もある。「越後の毒消し」で知られ、食中毒や腹痛に用いられる毒消丸にも配合されている。

 一般に消暑や解毒には生を用い、健脾には炒して用いる。扁豆花や扁豆衣も同様の効能があり、夏の下痢や嘔吐などに用いられる。

2014/09/12 9:46

○白附子(びゃくぶし)

 白附子は附子のひとつとして考えられると同時に、異なる基原を有する生薬である。朝鮮半島から中国の黒竜江・吉淋・遼寧省などに分布するキンポウゲ科の多年草キバナトリカブト(Aconitum coreanum)の塊根を関白附という。また河南、陝西、四川、湖北省などに産するサトイモ科の多年草、独角蓮(Typhonium giganteum)の塊茎を禹白附という。両者はまったく異なる植物であるがいずれも白附子の基原植物とされている。

 禹白附にはシトステロールやシュウ酸カルシウムなどが含まれ、なるめと舌がしびれる。関白附にはヒパコニチンなどが含まれ、辛くて舌が麻痺する。漢方の効能はほぼ同じであるとされ、風痰を除き、寒湿を逐う作用があるとされ、脳卒中、顔面神経麻痺、眩暈、片頭痛、痙攣などの痰によって管が塞がった症状やリウマチなどの寒湿による関節の疼痛などに用いる。

 白附子には薬勢を上行させる性質があり、とくに顔面部の症状に適しているといわれている。関白附は寒湿を除く作用や止痛作用が強く、禹白附は風痰を除く作用が強く、とくに痙攣の治療に適する。この禹白附の効能は天南星に類似している。

 顔面神経麻痺や脳卒中による半身不随には僵蚕・全蝎と配合する(牽正散)。破傷風の痙攣症状に天麻・天南星などと配合する(玉真散)。そのほか白なまず(白癜風)や湿疹、掻痒症などに外用する。

2014/09/09 10:06

○白部(びゃくぶ)

 中国原産のビャクブ科のつる性多年草ビャクブ(Stemona japonica)の塊根を用いる。ビャクブは江戸時代に薬草として日本に渡来したものであるが、学名をステモナ・ヤポニカという。そのほか同属植物のタチビャクブ(S.sessulifolia)やタマビャクブ(S.tuberosa)などの塊根も用いられる。いずれも紡錘形に肥厚し、数個が集まっている。

 根茎にはアルカロイドのステモニン、ステモニジンなどが含まれ、有毒である。これらアルカロイドは呼吸中枢の興奮を抑制し、多量だと呼吸障害を起こす。また煎液には抗菌作用、真菌抑制作用があり、エタノールエキスにはシラミなどに対する殺虫作用があり、急性や慢性咳嗽、百日咳にも使用される。

 漢方では特に「肺癆咳嗽の要薬」として知られている。風邪などで咳が長く続くときには紫苑・白前・桔梗などと配合する(止嗽散)。肺結核などの肺陰虚で咳が続き、血痰のみられるときには生地黄・熟地黄・阿膠などと配合する(月華丸)。また回虫症や蟯虫症に対して内服、あるいは蟯虫には煎液益を注腸する。シラミや疥癬、トリコモナスなどでは煎液を局部に塗布する。

 かつて日本でも百部の煎じた液にヒモを浸したものを「しらみひも」と称し、腹に巻いてシラミやノミの予防に用いていた。