2015/05/23 17:50

○防已(ぼうい)

 日本ではツヅラフジ科のオオツヅラフジ(Sinomenium acutum)の茎や根茎を防已あるいは漢防已といい、アオツヅラフジ(Cocculus trilobus)の茎や根茎を木防已という。

 中国産の防已(漢防已)の基原植物はツヅラフジ科のシマハスノハカズラ(Stephania terandra)やアオツヅラフジなどである。中国市場で流通している木防已としては、ウマノスズクサ科の広防已(Aristolochia fangchi)や漢防已(A.heterophylla)が主な基原植物である。ちなみに日本産の防已であるオオツヅラフジの茎を中国では青風藤として扱っている。

 しかし、近年、日本でも中国でも漢防已と木防已とはあまり区別しなくなり、今日では生薬の木防已はほとんど用いられていない。たとえば木防已湯のエキス剤でも木防已ではなく漢防已が配合されている。現在、日本に中国産の防已は輸入されておらず、日本薬局方に規定されているオオツヅラフジのみが基原植物として用いられている。

 オオツヅラフジの茎にはシノメニン、アクツミン、ツナクチン、マグノフロリンなどのアルカロイドが含まれ、シノメニンの鎮痛・抗炎症作用はよく知られている。シマハスノハカズラにはテトランドリン、フェンチノリンなどのアルカロイドが含まれ、やはり鎮痛・消炎作用が報告されているが、シノメニンには含まれていない。近年、ウマノスズクサ科の植物を基原とする防已のアリストロキア酸による腎障害が報告されている。

 漢方では防已や青風藤には去風湿・利水消腫の効能があり、浮腫や関節水腫、脚気、関節痛、腫れ物、湿疹などに用いる。ただし中国医学では青風藤(日本産の防已)は去風湿薬に、防已(中国産の粉防已)は利水薬に分類している。すなわち青風藤は粉防已よりも止痛作用が優れているが、利水作用はやや劣ると考えられる。

2015/02/02 9:44

○ヘンルーダ

 南ヨーロッパ原産のミカン科の多年草ヘンルウダ(Ruta graveolens)の全草を用いる。日本には明治初期に渡来し、薬用植物として栽培されている。

 全草に特異な香りがあり、葉を本に挟むとシミの害の予防になる。ヨーロッパでは古来より葉をソースや酢、飲料などの香料として、精油は香水として用いている。またローマ時代から魔除けの植物としても知られている。

 全草に精油のメチルノニルケトン、メチルヘプチルケトンなどが含まれ、抗菌作用、芳香性健胃作用が認められている。フラボノール配糖体のルチンはこのヘンルーダから最初に発見されたが、含量は多くない。

 ヨーロッパの民間では駆風・通経・鎮痙薬として腹痛、生理不順、関節痛、ヒステリー、動悸などに用いる。疲れ目や眼精疲労による頭痛の治療薬としてもよく知られている。

 一般に茶剤として乾燥した葉に熱湯を注いで飲む。そのほか軟膏に配合して痛風やリウマチ、凍瘡、打ち身、捻挫などにも利用され、またうがい水や浣腸薬にも用いられている。

2015/01/30 8:52

○扁桃(へんとう)

 西アジア原産で、世界各地で栽培されているバラ科の落葉高木アーモンド(Prumus dulcis)の種子(仁)を用いる。アーモンドは仁を食用とする果樹で、約4000年前からヨルダン地方で栽培され、現在では主に地中海沿岸や米国のカリフォルニアで栽培されている。

 明治に日本にも渡来したが、風土が適さず普及していない。中国では巴旦杏というが、これはペルシア語のバタムに由来するものである。日本では一般に扁桃といい、巴旦杏といえばスモモの品種の一つをいう。

 アンズの種子である杏仁と同じように、扁桃にも風味により苦味の苦扁桃と甘くて美味しい甘扁桃とに区別される。一般に薬用には苦扁桃を用い、甘扁桃はいわゆるアーモンドとして食用にする。

 苦扁桃には青酸配糖体のアミグダリン、加水分解酵素のエムルシン、脂肪油などが含まれる。甘扁桃にも脂肪油は含まれるが、アミグダリンは含まれていない。ヨーロッパでは古くから苦扁桃を水蒸気蒸留して得られる苦扁桃水を鎮咳薬として用いている。これは杏仁水とほとんど同じものである。ただし中国や日本では扁桃をあまり薬用として用いていない。

2015/01/08 9:36

○萹蓄(へんちく)

 日本各地および世界の温帯から亜熱帯にかけて分布するタデ科の一年草ナワヤナギ(Polygonum aviculare)の全草を用いる。別名をミチヤナギともいうが、庭や道によく生えて葉がヤナギに似ているためにその名がある。

 成分にはフラボンのアビクラリン、ケルセチン、イソケルセチン、ヒペリン、ルチン、タンニン、エモジンなどが含まれ、利尿、降圧、止血、抗菌、収斂などの薬理作用が知られている。

 漢方では利尿、通淋・殺虫の効能があり、膀胱炎や排尿障害、帯下、陰部掻痒症などに用いる。神農本草経には「浸淫疥癬、疽痔を主り、三虫を利す」とある。本草綱目には「小便を利す」とある。

 膀胱炎や尿道炎などによる排尿障害に瞿麦・木通・車前子などと配合する(八正散)。回虫や蟯虫、鉤虫などの寄生虫症に単独あるいは檳椰子・榧子などと配合する。またトリコモナス膣炎や肛門掻痒症などには新鮮なものの煎液を外用する。

2014/12/25 9:42

○ベラドンナ

 西アジアを原産とし、ヒマラヤの山岳からイラン、ヨーロッパ中南部に分布するナス科の大型多年草ベラドンナ(Atropa belladonna)の葉をベラドンナ葉、根をベラドンナ根という。

 ベラドンナとは「美しき(ベラ)婦人(ドンナ)」という意味で、中世ヨーロッパの婦人が瞳を大きく見せるために点眼薬として用いたことに由来する。学名をアトロパ・ベラドンナというが、アトロパとはギリシャ神話の運命の糸を断ち切る女神、アトロポスにちなむ。

 ヨーロッパでは古くからマンドラゴラと並んで「悪魔の草」と呼ばれる猛毒の植物で、しばしば毒薬に使用された。毒含量は開花期に特に多い。

 成分にはトロパンアルカロイドのヒヨスチアミン、アトロピン、ベラドニン、スコポラミンなどが含まれ、副交感神経遮断作用がある。このため平滑筋や気管支の弛緩、散瞳、分泌抑制などがみられる。ベラドンナの根や葉の粗末をベラドンナエキスといい、アトロピンの製造原料とする。

 古くから鎮痛、鎮痙、止汗、散瞳、催眠薬として用いられている。なおシーボルトは日本のハシリドコロ(Scopolia japonica(生薬名:ロート根))を誤ってベラドンナと鑑定したと伝えられている。

2014/12/22 9:15

○ペヨーテ

 メキシコ北部からアメリカのテキサス州南部にかけて分布するサボテン科のウバタマ(Lophophora williamsii)の茎頂部を用いる。サボテンとしては小型で、直径5~10cm、高さ3~6cmの偏平な青緑色をした球形で、トゲはなく乳房状のイボがある。

 高原の砂漠地帯に2~3cmほど頭を出し、そのほとんどは地中に埋もれている。もともとメキシコ原住民の間で宗教儀式に用いられたものであるが、18世紀にアメリカインディアンの間にも広がった。

 このサボテンの地上部を輪切りにして天日で乾燥すると円盤状になるが、これをメスカルボタンという。これを口にすると多幸になり、極彩色の幻覚をみることが知られている。この幻覚成分はアルカロイドのメスリカンであり、LSDと同様の幻覚作用がある。また顔面紅潮、嘔吐、痙攣、発汗、瞳孔散大、腱反射消失などもみられる。

 不眠症や神経衰弱の治療に用いられたこともあるが、もっぱら実験精神病の研究に用いられる。日本ではペヨーテは麻薬として指定され、使用が規制されている。

2014/12/19 10:17

○紅更紗(べにさらさ)

 本州北部から北海道に分布するマメ科の多年草エゾノレンリソウ(Lathyrus palustris var.pilosus)の全草を用いる。レンリソウ(連理草)とは小葉が対生する様子を表した名で、スイートピーと同属植物である。

 エゾレンリソウは別名ベニサラサ(紅更紗)あるいはヒメレンリソウ(姫連理草)という。全草にケンフェロールなどフラボノイドの配糖体が含まれる。

 民間では利尿薬として腎臓病に用いられたり、婦人の血の道症にに用いられる。また糖尿病に対して血糖を下げる効果があると報じられている。

2014/12/18 10:09

○別甲(べっこう)

 スッポン科のスッポン(Amyda japonica)およびシナスッポン(A.sinensis)の背および腹の甲羅を用いる。一般に背の甲羅が使用される。背甲を煮詰めたニカワを別甲膠という。

 スッポンは淡水に生息し、背甲は淡い灰緑色の楕円形で亀甲がなくて中央が突起し、口は長く吻状に突き出ている。ちなみにベッコウ細工に用いるのはウミガメ科のタイマイ(玳瑁)の甲羅であるため、スッポンのことを土別甲ともいう。

 また中国ではスッポンを甲魚とか水魚、元魚と呼んで料理に用い、裙辺(エンペラ)といわれる甲羅の周囲が最もおいしいといわれている。水魚枸杞湯など枸杞子や黄耆、当帰、山薬などとスープにしたものは薬膳としても知られている。日本でもスッポン料理は強精食として知られ、肉はすっぽん鍋、卵巣は吸い物のたね、スープは瓶詰、缶詰などに用いられている。また滋養強壮のため生血や生肝などを飲む風習もある。

 漢方では補陰・軟堅・止痙の効能があり、結核など陰虚の発熱、マラリアなどによる肝脾腫や腹部腫瘤、小児のひきつけなどに用いる。別甲は亀板と同様に補陰・止痙の効能があり、虚熱による盗汗、熱病による痙攣ややひきつけにしばしば併用する。ただし、別甲のほうが虚熱を清する作用が強いとされている。

 一方、亀板には補血・止血や補腎・強筋骨の効能がある。別甲膠は別甲とほぼ同様の効能であるが、滋養作用は別甲膠のほうが別甲より強いといわれる。

2014/12/17 9:12

○屁糞蔓(へくそかずら)

 日本各地、朝鮮半島、中国、台湾、フィリピンなどに分布するアカネ科のつる性多年草ヘクソカズラ(Paederia scandens)の果実や全草、根を用いる。茎や葉には独特の悪臭があり、そのため屁糞蔓とか鶏屎藤といった気の毒な名前がある。しかし、白くて中が紅紫色の小さな可憐な花が咲くためにサオトメバナ(早乙女花)とかヤイトバナ(灸花)という別名もある。

 全草にはイリドイド化合物のペデロシド、スカンドシド、アスペルロシドなどが含まれる。日本、中国の民間療法として知られているが、中国では全草および根、日本では果実を用いる。

 中国では煎じて下痢、腹痛、関節痛、腫れ物、打撲傷などに用いる。日本では生の果実をつぶしてその汁をしもやけ、ひび、あかぎれなどに外用する。また毒虫に刺されたときに葉の汁をすりこむと痛みやかゆみが止まる。インドネシアでは駆風薬としても知られている。

2014/12/10 9:46

○文蛤(ぶんごう)

 二枚貝のマルスダレガイ科ハマグリ(Meretrix meretrix)などの貝殻を用いる。ハマグリは日本、朝鮮半島、中国南部の近海に多く産し、肉は食用にされる。また近縁のオキシジミ(Cyclina sinensis)の貝殻とともに海蛤殻としても用いられている。

 蛤は殻長8cm、高さ6cmぐらいで、殻の色は灰色の地に褐色、紫色などの斑紋がある。主成分は炭酸カルシウム(CaCO3)で、キチンなども含む。

 漢方では清熱・止渇・軟堅の効能があり、口渇、煩熱、咳嗽、瘰癧(頸部リンパ腺腫)、痔などに用いる。傷寒論、金匱要略には口渇の激しいときに文蛤一味を散にした文蛤散、嘔吐の後の口渇に麻黄・杏仁などを配合した文蛤湯が記されている。