2015/06/11 18:04

○朴硝(ぼくしょう)

 天然の芒硝を加工して得られる組成結晶のことである。天然の芒硝を熱湯に入れて溶解した後、泥や挾雑物を濾したものを冷却して得られる結晶を皮硝といい、上層部分の細く尖った結晶を芒硝、底に沈殿した塊を朴硝という。また結晶のうち六陵形をした牙のような結晶は馬牙硝、白石英のようなものは英硝という。

 いずれも主成分は含水硫酸ナトリウムであり、朴硝には芒硝よりも不純物が多く含まれている。効能は芒硝酸とほとんど同じである。

2015/06/08 14:55

○蒲黄(ほおう)

 世界各地の温帯に分布するガマ科の多年草ヒメガマ(Typha angustata)やガマ(T.latifolia)、コガマ(T.orientalis)などの花粉を用いる。これらガマの全草を中国では香蒲と称して用いる。

 ガマは水湿地の水底から直立して生え、造園や生け花などにも用いられるほか、葉や茎は籠や敷物、すだれなどに、若芽や根茎のデンプンは食用にもされる。生薬としては夏の花が広きかけたときに雌花穂を採取し、ふるいにかけて粉末をとる。

 花粉にはイソラムネチンおよびその配糖体、脂肪油、βシトステロールなどが含まれ、子宮収縮作用や凝固時間短縮作用などが報告されている。古事記の中に大国主命が因幡の白兎の傷を蒲黄で治したとあるのが、日本で最も古い薬物使用の記述として知られている。

 漢方では止血・活血化瘀の効能があり「神農本草経」にも「小便を利し、血を止め、瘀血を消す」とあり、吐血や喀血、鼻血、下血、血尿、外傷などあらゆる出血に用いる。生で用いると止血作用よりも活血・化瘀の作用が強く、炒って黒く焦がしたものは止血作用が強い。

 単独で内服するほか、傷には外用する。字などの出血が続いて貧血や浮腫のみられるときには茵蔯・荊芥などと配合する(茵蔯湯)。瘀血による無月経や月経痛、産後の腹痛などには五霊脂と配合する(失笑散)。

2015/06/07 10:12

○蜂蜜(ほうみつ)

 ミツバチ科の昆虫、ミツバチ(Apis cerana)がつくった蜜糖を用いる。ミツバチが花蜜を吸い、いったん前胃に入れ、巣に帰ってこれを吐き出すため、唾液中の酵素によって花蜜中のショ糖は加水分解されて大部分が果糖およびブドウ糖の転化糖になる。

 濃厚な液体で色調は蜜源植物によって変わり、白色ないし淡黄色の白蜜、黄色ないし琥珀色の黄蜜とがある。夏季には半透明で光沢があるが、冬季には不透明となり、ブドウ糖の粒状結晶を析出する。

 成分には転化糖、ショ糖、アミノ酸、有機酸、ビタミンB群、アセチルコリンなどが含まれる。漢方では潤肺・補中・滑腸・止痛・解毒の効能があり、慢性咳嗽や便秘、胃の疼痛、鼻炎、口内炎、火傷などに用いる。一般でも蜂蜜は滋養・潤燥作用のある健康食品として親しまれている。

 乾燥性咳嗽や全身の衰弱には滋養薬として地黄・人参・茯苓などと配合する(瓊玉膏)。また鎮咳に用いるほかの生薬を蜜炙するとよい。その他、八味地黄丸など滋養強壮の丸薬を蜜丸にするのは蜂蜜による矯味や成型の目的だけでなく、補養を加味している。

 大烏頭煎に蜂蜜を入れるのは疼痛の暖解と烏頭の毒性を緩和するためである。また便が堅くて出ないときには蜜を加熱して固めたものを坐薬として用いる(蜜煎導法)。

 ちなみに1歳未満の乳児に蜂蜜を食べさせるとボツリヌス菌の芽胞が腸管内において発芽・増殖し、乳児ボツリヌス症発症の危険性があるため、控えるように注意されている。

2015/06/04 10:07

○防風(ぼうふう)

 朝鮮、中国北部から東北部、モンゴルにかけて分布するセリ科の多年草ボウフウ(Saposhnikovia divaricata)の根を用いる。ボウフウは日本には自生しておらず、日本で防風といえば浜辺に自生するハマボウフウ(Glehnia littoralis)のことをいう。

 本来のボウフウは江戸時代に中国から生苗が伝えられ、今日に至るまで奈良県大宇陀の森野旧薬園で栽培されている。これは森野藤助にちなんでトウケイボウフウ(藤助防風)の名でも知られ、また宇多防風、種防風とも呼ばれている。かつて日本ではハマボウフウの根が防風の代用として広く用いられていたが、現在、市場に出ている防風はすべて中国からの輸入品である。

 ボウフウの成分としてクマリン類のフラキシジンやデルトイン、クロモン類のハマドール、メチルビサミノールが含まれ、エタノールエキスには抗炎症・鎮痛、中枢抑制作用などが認められている。防風とは「風邪を防ぐ」という意味である。

 官報では解表・去風湿・止痛・止瀉の効能があり、感冒、頭痛、関節痛、筋肉痛、下痢などに用いる。一般に止瀉には炒って用いる。中国医学では風寒、風熱、風湿の治療に幅広く用いられているが、発汗作用はあまり強くなく、「風薬中の潤剤」ともいわれている。

2015/06/03 17:54

○虻虫(ぼうちゅう)

 アブ科のウシアブなど幾つかの種類のアブ(虻)の雌の全虫を乾燥して用いる。アブというのは、双翅目の昆虫のうち、ハエ、カ、ブユなどを除いたものを一括した呼称である。

 ハナアブなどは動物を刺したりしないが、ウシアブなどは家畜を刺して吸血するため害虫とされる。薬用には吸血性アブ類が用いられる。中国では複帯虻(Tabanus bivittatus)を用いる。ただし吸血するのはメスだけで、オスは花の蜜だけを吸う。

 体長により大型(18mm以上)のウシアブ系、中型(15mm前後)のシロフアブ系、小型(13mm以下)のヒメシロフアブ系に区別されている。

 薬理的に血液凝固阻止、溶血作用があると報告されている。婦人の月経異常や無月経、腹部腫瘤、打撲傷に用いる。動物性生薬のシャ虫・水蛭と同様、強い駆瘀血作用があり、しばしば配合される。

 漢方では消癥・活血化瘀・通経の効能があり、無月経や下腹部の硬満、瘀血による精神症状などに水蛭・大黄などと配合する(抵当湯・抵当丸)。腹部の腫瘤や無月経、皮膚の甲錯などには水蛭・シャ虫などと配合する(大黄シャ虫丸)。

2015/06/02 17:00

○芒硝(ぼうしょう)

 天然に産する芒硝(Mirabilite)を再結晶精製したものを用いる。天然の芒硝は内陸の塩湖に形成される。この芒硝を熱湯で溶解し、濾過した後に冷却して上層にできる結晶を芒硝、下層の結晶を朴硝という。すなわち朴硝は不純物がやや多く含まれているだけで、成分はほとんど芒硝と同じである。

 芒硝の成分は含水硫酸ナトリウム(Na2SO4・10H2O)であり、空気中で風化されると結晶水を失い白色粉末の無水硫酸ナトリウム(Na2SO4)に変化する。これを玄明粉あるいは風化硝という。

 ところで「傷寒論」などに記載され、古くに用いられた芒硝は含水硫酸マグネシウムではないかという説もある。硫酸ナトリウムや硫酸マグネシウムは塩類下剤で町内の水分を増加させて機械的に刺激し、腸蠕動を促進する。一般に4~6時間で排便し、腸の痛みはない。

 漢方でも苦寒瀉下薬のひとつで瀉熱・通便の効能がある。また芒硝には子宮収縮作用もあり、死胎を娩出するのに平胃散に芒硝を配合して用いたといわれている。玄明粉は芒硝より瀉下作用は穏やかであり、芒硝は朴硝よりも穏やかである。

2015/06/02 16:30

○芽根(ぼうこん)

 日本全土をはじめアジアやアフリカなどに広く分布するイネ科の多年草チガヤ(Imperata cylindrica)の根茎を用いる。日当たりのよい土手や堤防などに群生している。

 春先の花序がまだ葉鞘内にあるときには甘みがあり、ツバナと呼ばれて食べることができる。晩春から初夏にかけては小さなススキのような花穂をつける。

 根茎にはトリテルペノイドのシリンドリン、アルンドイン、フェルネノール、シミアレノールや有機酸類が含まれ、利尿、抗菌作用のあることが知られている。

 官報では清熱・止渇・止血・利尿の効能があり、口渇、喘息、鼻血、吐血、膀胱炎などに用いる。味は甘であるが膩ではなく、性は寒であるが、胃に障らず、利尿しても陰を傷らないといわれている。このため熱症の出血や熱病で口渇が著しいとき、また黄疸や膀胱炎に用いる。

 喀血、吐血、鼻血、皮下出血などの出血には大薊・側柏葉などとともに灰にして服用する(十灰散)。近年では腎炎の浮腫に効果があると報告されている(疎風利水湯)。ただし作用が穏やかなためかなり多量に用いることが必要で、一般量の15~30gに対し、腎炎に単独で用いるときには250~300gを煎じて用いる。

2015/05/27 20:01

○硼砂(ほうしゃ)

 乾燥地帯の湖水または鹸湖に産するホウ素やホウ酸の原料鉱石である硼砂(ボラックス:Borax)を精製してできた結晶を用いる。白色で粒状あるいは土塊状の硼砂を沸騰水に溶かした中に、麻縄を垂直に降ろして漬け、析出した結晶を取り出して乾燥する。

 組成は四ホウ酸ナトリウム(Ns2B4O7・10H2ら)であり、透明または半透明で光沢があるが、風化されると不透明の白色粉末となる。ホウ砂の水溶液に硫酸を加えるとホウ酸が析出する。味は鹸いが、甘みもある。

 ホウ砂にはホウ酸と同じ弱い殺菌作用があり、口内炎の治療やうがい薬、洗眼薬に用いられる。漢方では小毒で、解毒・防腐・清熱・消痰の効能があり、口内炎や喉の腫痛、結膜炎、咳嗽や喀痰、喉の詰まりなどに用いる。

 口内炎や歯肉炎、咽頭炎などに竜脳・朱砂・玄明粉と配合する(氷硼散)。現在でも麦粒腫(ものもらい)や結膜炎に硼砂やホウ酸の水溶液で目を洗浄することが行われている。また、ホウ酸と小麦粉などを混ぜて作ったホウ酸団子がゴキブリ対策によく用いられている。

2015/05/25 15:48

○望江南(ぼうこうなん)

 熱帯アメリカ原産のマメ科の一年草ハブソウ(Cassia occidentalis)の茎葉を用いる。日本には江戸時代に渡来し、小笠原諸島や沖縄県では野生化している。

 日本では種子も望江南というが、中国では種子を望江南子という。マムシ(ハブ)に咬まれたときに葉の汁を擦り込むとよいといわれることからハブソウという。この種子をあぶったものをハブ茶と称していたが、現在ではハブソウによく似たエビスグサ(C.obtusifolia)の種子(生薬名:決明子)がハブ茶として用いられている。

 全草にはエモジン、フイスチオン、クリソファノール、ケルセチン、種子にはエモジン、オブツシフォリン、レイン、アロエエモジンなどの成分が含まれる。薬理学的には葉には抗菌・抗真菌作用、種子には健胃・瀉下作用のあることが知られている。

 漢方では葉に解毒・止咳・和胃の効能があり、皮膚化膿症や咬刺症、咳嗽、便秘、胃の痞えなどに用いる。朱には明目・通便・解毒の効能があり、結膜症や便秘、皮膚化膿症に用いる。

 虫刺されや蛇咬傷、腫れ物などには葉の汁を患部に外用する。種子をあぶって焦がしたものを便秘や高血圧、眼病などの茶剤として服用する。

2015/05/24 17:55

○望月砂(ぼうげっしゃ)

 ウサギ科動物、モウコウウサギ(Lepus tolai)などの野兎の乾燥した糞を用いる。モウコ兎は中国東北部から内蒙古にかけて分布しているが、そのほか中国各地に生息している種々の野兎の糞も用いる。

 秋ごろに野草を刈った後、見つけた兎糞を集め、草や砂を除いて乾燥する。ただし家兎の糞は用いない。乾燥した糞は直径1cm前後のやや細長い灰褐色の塊で、手で揉むと崩れて草を散らした状態になる。乾燥したものは臭いはなく、味は少し苦い。

 漢方では明目・駆中・治痔の効能があり、白内障や視力の低下、疳疾、痔などに用いる。近年でも中心性網脈絡膜炎の治療に生地黄・夜明砂・黄精・石斛などと配合した処方が応用されている。