2015/09/28 10:47

○榠櫨(めいさ)

 中国原産で日本や朝鮮半島、アメリカなどでも栽培されているバラ科の落葉高木カリン(Chaenomeles sinensis)の果実を用いる。中国では同じバラ科のボケ(C.speciosa)を木瓜(皺皮木瓜)といい、榠櫨のことを光皮木瓜ともいう。

 ところで日本薬局法外生薬規格においてカリンの果実を木瓜として規定しているため、現在、日本の市場で木瓜として流通しているのは実はこの榠櫨である。

 日本には江戸時代に中国から渡来し、樹皮が美しいため盆栽や庭木としてよく知られ、また木材は家具の材料としても利用されている。黄色い西洋梨に似たカリンの果実には芳香はあるが、味は渋く、酸味があり、固くて生で食べられないため、一般に砂糖漬けや果実酒として利用される。

 ちなみに中近東原産で古くからヨーロッパで栽培されているマルメロ(Cydonia oblonga)の果実はカリンとよく似ており、長野県諏訪地方ではマルメロをカリンと誤称して扱っている。違いはカリンの果皮は滑らかであるが、マルメロの果皮には白い細毛が密生している。

 榠櫨は中国医学ではおもに去痰の効能があり、呼吸器疾患や悪心、下痢に用いる。中国ではあまり用いられていないが、日本漢方では専ら木瓜として利用している。ただし、中国医学でという木瓜の効能とは大きく異なるため、代用として適するか疑問である。

 日本の民間では焼酎につけたカリン酒を疲労回復に用いたり、煎じた液に砂糖や蜂蜜を加えて咳止めに用いている。

2015/09/22 11:09

○無名異(むみょうい)

 水成鉱床に見られる軟マンガン鉱、パイロルーサイト(Pyrolusite)を用いる。黒褐色の直径1cm前後の球形で、表面は常に黄褐色の粉末に覆われている。主成分は二酸化マンガン(MnO2)であるが、そのほかに鉄、コバルト、ニッケルなどの夾雑物を含んでいる。

 漢方では活血化瘀・止痛・消腫・生肌の効能があり、打撲傷、切傷、腫れ物などに用いる。内服では丸剤、散剤として酒で服用する。また外傷の部位にはしばしば酒や酢で溶いて塗布する。

 日本では江戸時代より佐渡に産出する第二酸化鉄を多く含む赤土が、その効能と同じであるとして無名異と呼ばれてきた。さらにその赤土あるいは鉄の赤錆を用いた切り傷や打ち身の塗り薬は無名円と呼ばれてよく知られていた。現在でも、佐渡ではこの無名異を用いた伝統的な陶芸、無名異焼きが伝えられている。

2015/09/16 9:46

○無花果(むかか)

 小アジア原産のクワ科の小高木イチジク(Ficus carica)の果実を用いる。中国では葉を無花果葉というが、日本では慣例的に唐柿葉と呼んでいる。

 イチジクは旧約聖書の創世記の中に登場するもので、栽培果樹としては世界最古の歴史を有する。中国には唐代になってから伝わり、日本には江戸時代に中国から渡来した。また20世紀のはじめにはアメリカから西洋イチジクという品種も導入された。

 ペルシア語「アンジール」から、中国語の映日(イェンジェイ)と音写されて「果(クォ)」が加えられた「映日果」が、イチジクの名の由来と考えられている。また唐柿とか南蛮柿という別名もある。

 無花果の名は外見上、花がみられないのに果実ができることにちなむが、実は果実と呼ばれるものが花托とその内面に密生する多数の花からできたものである。成熟した果実には豊富な栄養分が含まれ、食用にされる。とくに西洋では古くから好んで食べられ、地中海沿岸地方の干しイチジクは有名である。

 イチジクの果実には果糖やブドウ糖などの糖分、クエン酸などの有機酸、植物生長ホルモンのオーキシン、ベンズアルデヒドなどが含まれ、食物性の緩下作用が知られている。未熟果実や茎、葉からは白い乳液が出るが、これにはベンズアルデヒドやその誘導体が含まれ、制癌作用があると報告されている。葉にはクマリン類のベルカプテンやプソラレンが含まれ、血圧降下作用がある。

 漢方では清熱解毒・潤腸の効能があり、咽頭痛や声嗄れ、便秘、痔や腫れ物などのときに用いる。乾燥したものを煎じて服用するほか、果実を生で食べてもよい。また新鮮な果実から出る白乳液は外用薬として疣や痔の治療に用いる。ただし生の汁はかぶれやすいので注意が必要である。

 一般に痔の治療に葉を煎じた液で洗浄する方法がよく知られている。葉や枝を浴湯料として用いると、痔のほかにも神経痛や婦人病に効果がある。また生の葉を煎じたものはウジ殺しにも利用された。

2015/09/15 5:26

○ムイラプアマ

 南米アマゾン川流域に分布するボロボロノキ科の低木ムイラプアマ(Ptychopetalum olacoides)の根及び樹皮を用いる。ただし、ブラジルでムイラプアマと呼ばれている植物に、別のボロボロノキ科のLiriosma ovataもあり、同様の効能が謳われて商品化されている。

 アマゾン川流域のインディオ達は疲労回復や神経や筋肉の強壮剤として、またインポテンツの治療薬として利用してきた。20世紀のはじめに媚薬としてヨーロッパにもたらされ、内服用の流エキスや陰部浴剤として用いられた。

 根と樹皮には遊離脂肪酸や脂肪酸エステル、アルカロイドのムイラプアミンなどが含まれている。近年、男性だけでなく女性の性機能改善や月経不順、また神経衰弱や抑うつ、認知症などにも用いられている。日本でも強精・強壮を目的としてドリンク剤や滋養強壮薬に配合されている。

 有効成分の多くは脂溶性であるためチンキ剤として利用するほうがよい。また、チンキ剤をリウマチや麻痺の患部にすり込んでマッサージする治療法もある。

2015/09/08 17:13

○明党参(みんとうじん)

 中国北部に分布するセリ科の多年草ミントウジン(Changium smyrnioides)の根を用いる。党参はキキョウ科のヒカゲツルニンジン(Codonopsis pilosula)の根であり、全く別の植物である。

 ミントウジンの根を沸騰した湯でよく煮て外皮を除き、乾燥したものが明党参であるが、根を生のまま外皮を去って乾燥したものは粉沙参という名で呼ばれている。精油とデンプンを含むが、成分や薬理効果は不明である。

 漢方では潤肺・去痰・健胃の効能があり、咳嗽や喘息、眩暈、嘔吐などに用いる。とくに乾燥性の咳嗽や肺結核などによる陰虚の咳嗽に効果がある。おもに中国の民間薬として単独で用いられている。

 明党参沙参とは効力は似ているが、明党参は去痰、沙参は潤肺の作用が強い。ちなみに明党参には補気の効能はないため党参の代用にはならない。

2015/09/03 5:32

○壬生蓬(みぶよもぎ)

 ヨーロッパ南部原産のキク科の多年草ミブヨモギ(Artemisia maritima)の全草を用いる。キルギス地方で栽培されていた同属植物のセメンシナ(シナヨモギ:A.cina)の輸入が禁止されたため、代替植物としてドイツから輸入されたもので、京都の壬生で試作され栽培されるようになったものである。

 セメンシナ(Semen Cina)とは本来「シナの種子」という意味であり、薬用にされる蕾が小さいため種子と間違えられたことに由来する。

 セメンシナの花蕾はシナ花(Flores Cinae)といわれ、ヨーロッパでは紀元前5世紀のギリシャ時代から回虫駆除薬として知られ、サントニン(Santonin)という薬剤名で販売されていた。ミブヨモギにもサントニンが含まれる。サントニンは回虫、蟯虫などに対して駆虫作用があるが、条虫には効果がない。

 副作用としては用量が多くなると黄視が現れる特徴があり、大量では痙攣などが生じる。現在、海藻のマクリ(海人草)から得られるカイニン酸と配合したカイニン酸サントニン散が駆虫薬として用いられている。

2015/09/03 5:29

○蜜蝋(みつろう)

 ミツバチ科のミツバチなどの働き蜂が腹部から分泌したもので、巣を構成している蠟質のものを精製して用いる。蜂蜜を取った後の蜂の巣を水と一緒に過熱して溶解し、上層の滓を除いて熱いうちに濾過し、それを放置して水面に浮かんでくる凝結した塊が蜜蝋である。

 この組成の蜜蝋は黄色~黄褐色のため黄蠟ともいわれ、これをさらに煮詰めて漂白などの加工を加えたものは白蠟あるいはサラシミツロウという。

 蜜蝋はエステル、遊離酸、遊離アルコール、アルキルなどで構成され、蜜蝋の約80%を占めるエステルのミリシル・パルミネート、遊離酸のセロト酸、遊離アルコールのミリシルアルコール、アルキルのペンタコサンなどが含まれている。また東洋ミツロウには西洋ミツロウには含まれないグリセリドが4%含まれている。

 蜜蝋の用途は西洋ではロウソクの原料として、また軟膏の基剤や化粧品の基剤になるほか、鋳物の原型や製版材料、さび止めなどの工業用にも用いられている。

 漢方では解毒・消腫・生肌の効能があり、下痢や皮膚化膿に内服薬として用いるほか、皮膚炎や火傷に用いる軟膏の基剤としても用いる(紫雲膏)。

2015/08/30 20:22

○密蒙花(みつもうか)

 中国の中部や西南部に分布するフジウツギ科の落葉低木ワタフジウツギ(Buddleja officinalis)の花または蕾を乾燥したものを用いる。

 同属植物のフジウツギ(B.japonica)は別名「毒流し草」、トウフジウツギ(B.lindleyana)の中国名は「酔魚草」とあるように、これらの葉をすりつぶして池に入れると魚は浮き上がって死ぬ。ただし、この魚を人間が食べると腹痛や麻痺が起こるので魚漁には適しない。

 ワタフジウツギにはこのような作用はない。なお湖北・四川・広西省などではジンチョウゲ課のミツマタ(Edgeworthia chrysantha)の蕾を密蒙花としている。ワタフジウツギの花穂にはビタミンP作用のあるアカセチンやアカイシンなどのフラボノイドが含まれる。

 漢方では明目の効能があり、結膜炎や流涙症、角膜混濁、視力低下など眼科疾患に対する常用薬である。急性、慢性の結膜炎や羞明、角膜混濁などには枸杞子・石決明・菊花などと配合する(密蒙花散)。視力低下には枸杞子・菟絲子・桑椹などと配合する。

2015/08/27 5:33

○密陀僧(みつだそう)

 鉛の溶解したところを鉄の棒でかき回し、鉄の棒に付着した鉛を冷水に浸してできる一酸化鉛(リサージ:Litharge)を密陀僧という。かつては方鉛鉱から銀や鉛を精錬する際に炉の底に沈着した副産物であった。

 橙黄色の不規則な塊状で、くずれやすく、かすかに得意な臭いがある。この粉末は酸にもアルカリにも溶け、空気中に放置しておくと徐々に二酸化炭素を吸収して塩基性炭酸鉛(鉛粉)となる。薬理学的には皮膚真菌に対して抑制作用が知られている。

 漢方では消腫・殺虫・生肌の効能があり、痔、湿疹、腫れ物、潰瘍、腋傷、腋臭の外用薬として用いる。庁瘡、火傷、切傷、梅毒性皮膚病などの治療薬に鉛丹・瀝青などと配合した神力膏がある。

2015/08/21 8:11

○水(みず)

 通常、生薬を煎じるときには水を用いる。現在、煎剤用には精製水、蒸留水、水道水などが用いられているが、かつてはさまざまな天然水を用いた。

 天然水は硬水と軟水とに区別され、カルシウムイオンやマグネシウムイオンなどのイオンを比較的多く含むものを硬水、少ないものを軟水という。天然水のうち地下水は硬水に、地表水は軟水に近い。

 傷寒論や金匱要略の中にはいくつかの水が記載され、かつては処方に応じて水を区別していたことが伺える。井泉水は井戸から汲み上げられる地下水、井花水とは朝一番早く汲んだ井戸水のことである(風引湯)。地漿または土漿は土と水を大きな器に入れてかき混ぜた後に沈殿させた上澄みのことである。

 泉水とは湧き水、谷水のことである(百合滑石代赭湯)。甘燗水または労水とは容器に入れた水をひしゃくで何度も汲んだり、注いだりして泡立てた水のことである(苓桂甘棗湯)。

 流水とは河川を流れる水、東流水とは東に流れる川の水のことである(沢漆湯)。雨水とは雨を溜めた水、潦水とは雨の後に地面にたまった水のことである(麻黄連軺赤小豆湯)。泔水は硬米泔ともいい、米のとぎ汁(シロミズ)のことで、このとぎ水を少し酸敗させたハヤズを漿水という(赤小豆当帰散)。また水に酢や酒、童便などを混ぜて用いることもある。