2014/08/05 9:35

○白芥子(びゃくがいし)

 中央アジア原産とされ、ヨーロッパや中国で栽培されているアブラナ科の一年草~越年草、シロガラシ(Brassica alba)の種子を用いる。種子の色が淡黄白色のため白芥子というが、単に芥子といえばカラシナ(B.juncea)の種子のことをいう。

 香辛料としてシロガラシの種子は「洋がらし」すなわちマスタード、カラシナの種子は「和がらし」の原料に用いられる。一般に漢方では白芥子を用い、日本の民間療法では芥子が用いられる。

 白芥子の辛味成分はシナルビンであり、芥子の辛味成分はシニグリンである。シナルビンは共存する酵素のミロシンの作用により加水分解され、イソチアン酸パラヒドロオキシルベンジルを生じる。ただし揮発性がないため鼻に対する刺激はない。芥子と同じく皮膚刺激性があり、また抗菌作用もみられる。

 漢方では温裏・理気・去痰・止痛の効能があり、咳嗽、喀痰、嘔吐、腹痛、中風による言語障害や麻痺、脚気、歯痛、腫れ物などに用いる。白芥子は温化寒痰の常用薬で、痰の多いときに適している。

2014/08/04 9:57

白花蛇舌草(びゃくかじゃぜっそう)

 本州から沖縄県、朝鮮半島、中国、熱帯アジアに分布するアカネ科の一年草フタバムグラ(Oldenlandia diffusa)の全草を用いる。田畑に生える雑草で、二枚の葉が対になっているためフタバムグラの名がある。中国の広東省などで研究されている薬草で、マレーシアの民間療法に影響されたものである。

 成分にはヘントリアコンタン、ウルソール酸、オレアノール酸、クマリンなどが含まれ、抗菌・消炎作用がみられる。漢方では清熱解毒・通淋の効能があり、肝炎、扁桃炎、肺炎、虫垂炎、急性腎炎、膀胱炎、毒蛇の咬傷などに用いる。

 民間療法では生で用いることも多い。最近では細胞性免疫を強化し、癌の進展を抑える抗腫瘍作用が注目され、とくに胃癌や大腸癌、肝癌などへの効果が研究されている。一般に半枝蓮と併用されることも多いが、単独の注射液や複合内服液(天心液)も製品化されている。

2014/07/30 8:58

○蓖麻子(ひまし)

 北部アメリカを原産とするトウダイグサ科の木質の草本トウゴマ(Ricinus communis)の種子を用いる。ヒマやカラエとも呼ばれ、日本では冬に枯れるので一年草とされるが、熱帯では多年にわたり生長を続けて草丈が6mを越えることがある。

 種子の大きさは長さ15mm、直径8mmくらいの扁平楕円形で、種皮には光沢があり、暗褐色の斑紋が見られる。古代エジプトの最古の医学書にも薬物として収載されているもので、日本には中国から9世紀ころに渡来した。このため唐胡麻という名がある。種子を圧搾して得られる脂肪油をヒマシ油という。

 現在ではブラジルやインドなど世界各地で栽培され、その油は印刷用インクなどの工業用や化粧品原料などに利用されている。かつては航空エンジンの潤滑油としても利用されたことがある。

 種子には30~50%の脂肪油が含まれ、成分としてリシノール酸やステアリン酸などのグリセリドのほか、毒性タンパクのリシン、有毒アルカロイドのリシニンなどが含まれている。リシンやリシニンには催吐、降圧、呼吸中枢麻痺などの毒性があり、小児では5~6個、成人では20個より多く食べると死亡するといわれる。

 リシノール酸のグリセリドが腸管の中で分解されてリシノール酸ナトリウムを生じ、これが小腸粘膜を刺激して腸管の蠕動を亢進させる。それと同時に油やグリセリンの粘滑作用も加わり、2~4時間で排便がみられる。このため食中毒のとき、あるいは検査や手術の前処置として健やかな便の排出を目的として利用される。

 漢方ではあまり用いられず、民間療法では生のまま削ったり、炒ったものを瀉下剤として単独で服用する。しかし、一般にはおもに殻を除いて泥状につぶしたものを外用薬として用いる。たとえば腫れ物の初期や火傷、犬の噛傷の患部に塗布する。

 また独特の治療法として顔面神経麻痺には患部および手掌、子宮下垂や脱肛には百会、難産の時には湧泉といった経穴に塗布する方法がある。

2014/07/29 8:58

○蓽茇(ひはつ)

 東南アジアに分布するコショウ科のつる性常緑木本植物ヒハツ(piper longum)の未熟な果穂を用いる。ヒハツは長い房になったまま用いるのでナガコショウとも呼ばれている。

 現在、カレー粉などの香辛料として現地の人しか用いていないが、ギリシャ・ローマ時代にはコショウよりもナガコショウ(ヒハツ)のほうが一般的であった。実際、英語のpepperとヒハツは、サンスクリット語のPippeliに由来する。

 果穂にはアルカロイドのピペリン、チャビシン、ピペルロングミンなどが含まれ、抗菌作用や血管拡張作用が報告されている。漢方では散寒・止痛の効能があり、冷えによる嘔吐、腹痛、下痢に用いる。そのほか、頭痛や歯痛、鼻水や鼻づまりにも用いる。虫歯の歯痛には蓽茇と胡椒の粉を蝋で固めたものを穴に詰めるとか、片頭痛には蓽茇の粉末を温水で鼻に通すといった方法がある。

 近年、ヒハツが血流を促進し、新陳代謝を高め、体温を上昇させて、脂肪の燃焼を促進させることから、ダイエット素材として利用されている。ちなみに沖縄県(八重山列島)でピハーツ、フィファチ、沖縄コショウと呼ばれているのは、ヒハツモドキ(P.retrofractum)のことで、インドナガコショウに対して、ジャワナガコショウ(Java long pepper)という別名もある。

2014/07/28 8:53

○蓽澄茄(ひっちょうか)

 ジャワ原産で東南アジア、インドなどに分布するコショウ科のつる性常緑木本植物ヒッチョウカ(Piper cubeba)の果実を用いる。これをクベバ実ともいう。そのほか中国南部、台湾、インドネシアなどの東南アジアに分布するクスノキ科の落葉低木リツェアクベバ(Litsea cebeba)の果実を用いることもある。

 このリツェアクベバは、タイワンヤマクロモジ(別名リトセア:L.citrate)やアオモジ(L.citriodora)としばしば混同されている。いずれも果実からシトラールを含む精油が得られる。本来、ヒッチョウカの果実が中国に伝わり、中国に産するリツェアクベバの果実と色や形状、気味などが類似しているためヒッチョウカの代用にされたと考えられている。しかし、成分に関しては全く異なっている。

 ヒッチヨウカの果実には精油の成分としてサビネン、カレン、シネオールなどのほか、リグナンのクベビン、クベビノライドなどが含まれ、日本住血吸虫の早期治療やアメーバ赤痢に効果がある。かつてヨーロッパなどでは健胃・利尿作用があるとされ、専ら淋病の治療薬として用いられた。リツェアクベバの果実には精油成分としてシトラール、メチルヘプテノン、リモネンなどが含まれ、喘息およびアレルギー性ショックに対して効果がある。

 漢方では温裏・止痛・理気の効能があり、冷えによる嘔吐、吃逆、ゲップ、腹部膨満感、腹痛や小便不利に用いる。インドネシアでは下痢や感冒、喘息などに用いている。アロマセラピーでは、リツェアクベバの果実はメイチャン(May Chang)とも呼ばれ、エッセンシャルオイルとして知られている。

2014/07/23 9:00

○砒石(ひせき)

 ヒ素を含む生薬には雄黄、雌黄、砒石、砒霜、石譽などがある。砒素の「砒」とは天然に産する無水亜ヒ酸(三酸化ヒ素)の砒華鉱石、つまり砒石のことである。

 しかし、現在では硫化物の鶏冠石やヒ化鉱物の石譽(硫砒鉄鉱:FeAsS)などを加工したものが砒石として用いられている。また砒石を昇華させて精製したものは砒霜という。無水亜ヒ酸(As2O3)は単に亜ヒ酸とも呼ばれ、これは細胞を変成、壊死させる細胞毒で、内服すれば胃腸に出血性炎症を生じ、肝障害や腎障害、皮膚にヒ素疹などをひきおこす。

 致死量は約0.1gであり、急性中毒ではコレラ様の胃腸症状、筋肉痙攣をおこし、昏睡となり、死亡する。慢性中毒では食欲不振、皮膚の色素沈着や白斑、抹消神経障害や頭痛などがみられる。また発癌性物質として取り扱われている。

 かつてヒ素化合物のサルバルサンが水銀に代わる駆梅薬としてよく知られていた。ヒ素をごく微量だけ飲むと体力がつき、女性は肌が美しくなるという説もあり、アジア丸などが強壮薬として用いられたこともあった。

 漢方では性味は辛酸・熱・大毒で、去痰・抗瘧・殺虫・去腐の効能がある。おもに痔や瘰癧(頸部リンパ腺腫)、歯槽膿漏、皮膚潰瘍などの外用薬として利用された。内服ではごく微量を慢性気管支炎やマラリアに用いる。

2014/07/18 9:02

○榧子(ひし)

 中国の揚子江以南に分布する常緑高木シナガヤ(Torreya grandis)の種子を用いる。日本では同属植物のカヤ(T.nucifera)を榧と書いているが、本当の榧は日本には自生していない。ただし日本や韓国ではカヤの種子を榧子の代用にしていたこともある。

 カヤは東北地方から屋久島、済州島に分布し、その柾木材は碁盤将棋盤の最高級品として知られる。カヤの実の油は食用や頭髪油、灯火油としてり利用されていた。シナガヤの種子は脂肪酸を多く含有し、パルミチン酸をはじめステアリン酸、リノール酸、オレイン酸などのグリセリド、ステロールが含まれる。抽出エキスにはの条虫の駆除作用が知られている。日本産のカヤの種子にはアルカロイドが含まれ、子宮収縮作用が報告されている。

 漢方では殺虫・潤肺の効能があり、穏やかではあるが広範囲の駆虫薬として用いる。鉤虫や蟯虫、条虫、フィラリアなどへの効果が報じられている。煎剤や丸剤としても用いるが、単独で炒ったものをよく噛んで食べる方法もある。日本ではカヤの実を炒って粉末にしたものを寄生虫や小児の夜尿症の治療に用いる。また民間では堕胎薬としても用いられた。

2014/07/17 9:41

○萆薢(ひかい)

 日本の各地や中国大陸に分布するヤマノイモ科のつる性の多年草オニドコロ(Dioscorea tokoro)やタチドコロ(D.gracillima)などの根茎を用いる。そのほか中国では粉背署蕷、叉心署蕷、繊細署蕷などの根茎も用いている。

 オニドコロやタチドコロは日本各地の山野や道端に自生し、全体にヤマノイモに似ている。オニドコロはトコロとも呼ばれ、根は肥大せずに横走し、ヒゲ根が多く、長寿の象徴として正月の飾りに用いられることもある。また根には苦味はあるがデンプンを含み、飢饉のときの食用にもされた。ただし、そのまま食べると嘔吐や胃腸炎を起こすため、灰汁で煮て水に晒して調理することが必要である。

 根茎にはステロイドサポニンのジオスシン、ジオスコリン、グラシリン、ジオスコレアサポトキシンAなどが含まれる。この根を砕いて川に流し、魚をしびれさせて漁をする魚毒としても利用される。

 漢方では去風湿・利水の効能があり、リウマチなどによる関節痛や足腰の疼痛、排尿障害や混濁尿、湿疹などに用いる。古くから萆薢は「治湿に最も長じ、治風これに次ぎ、治寒はそれに次ぐ」といわれている。膀胱炎や淋疾、膣炎、前立腺炎には烏薬・益智仁などと配合する(萆薢分清飲)。湿疹や丹毒には黄柏・牡丹皮などと配合する(萆薢滲湿湯)。リウマチや神経痛には防風・牛漆などと配合する(萆薢酒)。

2014/07/16 9:14

○繁縷(はんろう)

 世界各地に広く分布するナデシコ科の越年草コハコベ(Stellaria media)の全草を用いる。一般にコハコベとミドリハコベ(S.neglecta)を合わせてハコベと称し、いずれも薬用にできる。春の七草の一つで若い茎や葉は食用とされる。またヒヨコグサの別名もあって小鳥の餌としてもよく知られているが、英語ではChickweedと呼ばれている。

 成分は不詳であるが、青汁には葉緑素やカルシウム、酵素などが含まれる。日本の民間では動悸や息切れの妙薬として、また催乳薬、胃腸薬として用いられている。昭和初期には虫垂炎の妙薬として騒がれたこともある。中国でも民間薬として知られ、活血・催乳・解毒の効能があるとして、産後の腹痛や母乳不足、嘔吐や下痢、腸癰などに用いる。

 茎や葉をカラカラに干したものや炒ったものをすりつぶし、できた緑色の粉と塩を混ぜたものが「はこべ塩」である。今日でも歯茎の出血や歯槽膿漏の予防に用いられる。欧米でもハコベはパップ剤や軟膏として皮膚の化膿症や潰瘍の治療に利用されている。

2014/07/15 9:03

○板藍根(ばんらんこん)

 アブラナ科に属するホソバタイセイ(Isatis tinctoria)やタイセイ(I.indigotica)、キツネノマゴ科のリュウキュウアイ(Storobilanthes flaccidifolius)の根茎および根を用いる。これらの葉や枝葉は大青葉、精製された藍色の色素は青黛として生薬に用いられる。ホソバタイセイはヨーロッパや南西アジアが、タイセイは中国が原産とされている。

 これらの植物はインジゴを含み、古くから世界各地で藍色の染料として用いられた。植物に含まれるインジカンは、発酵させることにより加水分解されてインドキシルとなり、さらに空気による酸化を受けインジゴとなる。薬理学的には抗菌作用、抗ウイルス作用が認められている。

 漢方では清熱涼血・解毒の効能があり、高熱や発疹、咽頭痛を伴うような感染性熱性疾患、脳炎、髄膜炎、丹毒、肺炎、耳下腺炎などに用いる。顔面の丹毒や腫れ物、中耳炎、耳下腺炎などで熱のみられるときには黄芩、黄連などと配合する(普済消毒飲)。

 近年、中国では日本脳炎、インフルエンザ、ウイルス性肝炎などに対する臨床研究が行われ、板藍根の注射液なども開発されている。また、中国では一般家庭でも板藍根うがい薬や風邪薬としてよく知られており、最近ではSARS(重症急性呼吸器症候群)にも有効だとしてブームとなった。

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