ホーム蓮の花道雑記
『寛庵にて』
「広尾の賢人」の忠告に従って論を断念して約一ヶ月がたった。
たった一ヶ月なのにいろいろあった。
いつものように「軽く軽く些事がみな予定外であった」わけだ。今、魚野川の源流、越後の山並みを見渡す寛庵で一人夏休みを取っている。否,正確にいうと一人ではなくハナと二人である。


窓からは谷川連山の山肌が至近に望まれる。

夏枯れの魚野川のせせらぎの音には既に初秋の気配が濃い。

「もう東京へなど帰らずハナとここで暮らすのもいいか」と

今朝、ハナと朝露の残る野山を歩きながら話し合った。

ハナはそれでもいいと言ってくれたが、そんな事を思いつく弱気な自分に自嘲し、昼からウイスキーを飲んでいる。

観自在
 二回目の私論をアップした翌日、出社してメールを開くと『広尾の賢人』からメールが届いていた。

 「論は大より小が宜しく存じ折り候。この点、如何。街の豆腐屋は朝より豆腐を作り、売り歩く事こそ豆腐屋の有り様にして夢夢、一級の料理人と勘違いせぬことが肝要と思い致し候。ご賢察の程。」

 要するに賢人の忠告である。大論であろうと私論であろうと論を成すなどお前さんの柄じゃない。いわんやこの道一筋五十年の作家を説くなどお前さんの及ぶとこでもない。手遊びのブログ書きにはそれなりの分別が必要だ。
まー、ざっとこんな意味であろう。
読んでいて冷や汗が垂れてきた。大きな勘違いにいきなりきずいた、いやきずかされた。

 『広尾の賢人』の読みの鋭さと変わらぬ友情に只只、頭が下がった。
斯様な事由で『内藤忠行私論』は今回を以ってしばらく中断する事になりました。
 只、往生際が悪いと賢人にはお叱りをうけるのを承知で一言だけ「論」の結末を次回書かせていただきます。

六月某日-狢と狸の違い 最終回
狢と狸の違いの続編をかかねばと気に掛けながら半月以上たってしまった。
相変わらずの東奔西走であり、意志とは関係なく『軽く軽く些事がみな予定外』であった。

最初から結論なんてわかりきった事で狢も狸も同じ穴の仲間なのだと書こうと思っていたわけだが事実はブログよりも奇なりで、この半月の間に新手が登場してきた。
ホリエモンと入れ替わりに村上何がし氏が塀の向こうに行ってしまったのだ。狐の登場である。


そして三日ほど前またまた新手が登場した。狐の後見人、福井日銀総裁である。狐の後見人を動物に喩えると何になるのかと考えたのだが分からない。そこで広尾の賢人に尋ねたら『一般論としては適当ではないが、まあー今回の例で喩えるなら、兎さんではないか』とおっしゃる。

狢と狸のお話
『狢は狐にだまされた。狸は狢に脅された。兎は狐にご褒美をもらった。』
おしまい。
日本という国に未来はあるのか。
十日ほど前、夜の下関に着き車でホテルに向かっていた。海沿いの道を走っていた時、沖合いの船が汽笛を低く鳴らした。突然、若いころ憶えたこんな詩が思い出された。

「マッチ擦るつかのまの海に霧ふかし身を捨つるほどの祖国はありや」

六月某日-狢と狸の違い その2
よっちゃんもオッサンも実によく食い、飲み、しゃべり、笑った。
はなから付いて行くつもりなど無いのだが、どうも話しに入っていけない。
増収増益はあたりまで、ROEをどう高めるか、日本版SOX法を先取りして社内のリスク管理体制とコンプライアンス体制をどう確立するか。

ここでステーキをほうばり、ワインを一口飲むと、役員氏は
「視聴率至上主義と揶揄する向きもおありだが、視聴率以外にテレビ局のレーゾンデートルはありえません。いかに企業価値をたかめるか、それが経営者の責務だと思われませんか。会社ももうすぐ上場されるとお聞きしましたが」といきなり話を振ってきた。

おそらく、おそらくではあるが、上海で黒マントの先生に出会い、特展酒会の翌日から、およそ一週間にわたって、早朝の外灘で、夜のフランス租界で、老子を聞き、調息を習い、昼間、スマロの界隈を歩きながら先生に話を聞いてもらわなっかたら、おそらく・・・・・
「同感です。ぜひいろいろお教え下さい。」と応じ、気持ちの方角と密度を彼らのそれに合わせていくことが極、自然に出来たと思う。

「企業価値とおっしゃるのは、あの、時価総額至上主義のことでしょうか。」
一瞬、役員氏の眼に不快な気配がながれた。
あっちのテレビ局もこっちのテレビ局もあの時価総額至上主義の申し子たちについこの間まで恫喝されていたのだ。

六月某日-狢と狸の違い その1
いつものように早めに仕事を終え、いきつけのクラブに行き、いつものように軽く汗を流し、軽くストレッチをやり、軽くサウナに入ると、いつものように外苑西通り沿いにある小さなバーに入る。
「いつもの、二杯」
アイリッシュモルトの水割りを二杯、柿の種をつまみながら十五分程かけて飲み、いつものように千五十円を置いて店を出ようとした時、携帯が鳴った。

「今、どこ」いきなりのけたたましい大阪弁。
「今、青山。久しぶりだね。あんまりご無沙汰なんで忘れられちゃったのかと思ってたよ。」
「そんなアホなこと言わんといて、それより、これから時間あらへん。」
「よっちぁん、今どこ」
よっちゃんは一部上場企業の社長兼CEO.で二十年来の戦友みたいなもの、と思っていた時期もあったがここ数年、あまりにもリッチでセレブになられたので何故か疎遠になっていた。
「帝国ホテルの中2階のバー。友達と飲んでてこれから食事するんやけど、紹介しようと思って。」

「久しぶりだし行ってみるか、という気持ちと知らない連中と飯を食い酒を飲むのもめんどくさいという思いが一瞬拮抗した。
「友達って、だれなの」
「テレビ局の役員さん。東大出ててごっつい頭のきれるオッサン」
「テレビ局の頭のいいオッサン」、に左脳内の何かが反応した。ちょっとした暇つぶしにはなるかも。
「わかった。これから行く。オールドインペリアルバーでいいんだよね。」

6月某日
東京に帰ると又、常の日々に戻った。相変わらずの東奔西走,南船北馬と怒ったり、脅されたり,お願いしたり,貶されたりの消耗戦が日々繰り返される。
軸は選択できない。

増収増益、財務基盤の拡充と営業基盤の強化。付け加えるなら、研究開発力の向上なんていうのもいいかもしれない。
二十四時間、歩いてる時も寝てる時も軸はこれしかない。いつの間にか気がついたら軸はこれだけになっていた。
日経新聞もNHKも財務省も経団連も同友会もこの軸を全面的に賞賛し邁進する。ホリエモンはちょっとセンスがよかったから塀の向こうに行ってしまったが、狢と狸の違いを狢に聞いたら「それは狸に聞いてくれ。」と言うのかしら。

テレビは相変わらずの馬鹿騒ぎをやっていた。
狢が檻から出てくるというのでヘリコプターを飛ばしたり、バイクで追いかけたり『決定的瞬間』を撮るために何百人がかりで絶叫しあっている。



「アホクサ・・」とテレビを消そうとした正にその瞬間であった。
青いサマーセーターを着た彼がライトに照らされ大きく手をあげた。
勝者の微笑みに見えた。
軸が消えていた。