ホーム蓮の花道雑記
室戸岬から
 二十四番最御崎寺から三十二番禅師峰寺まで歩こうと思う。
約二百キロの行程を五日もあれば行けるのだが、今回は件の『広尾の賢人』が同行されるので、お大師さまと合わせると同行三人の遍路行となり五日ではいささか心もとない。

 賢人は糖尿を少し患っていらっしゃっていて、「四国を二か月かけて歩いて治らない病気なんて無いんですよ。」との誘いに軽く乗ってこられたのだった。

 初日は前回打ち終わった最御崎寺の太子堂を参ることから始めた。長い山道を下り海岸線の道をどこまでも南下する。二十五番津照寺を打ち、その日の宿に決めた金剛頂寺への急峻な遍路道を登りはじめた頃から賢人の息ずかいは荒くなり、歩みはのろくなり始めた。

その晩、金剛頂寺の宿坊でビールを飲みながら
「長生きしたいなどとは思わない」と弱音を洩らす賢人に
「だから、歩くんですよ。歩き続けて果てにやむ。」と元気づけ、
「明日からは別々に歩きましょう。やはり、同行二人です。」と告げた。

 翌朝、土佐の海の水平線に茜色の陽が上る頃、勤行をすませ賢人に「それでは、お達者で」と別れを告げて土佐一番の難所、神峯寺への長い海沿いの道を歩き始めた。

 歩いているときは唯歩いているのであって、不足もないし、過分もない。